メールマガジン「和服の基礎知識」バックナンバー〈058〉

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○  ●○● 和服の基礎知識 ●○● 〜日本文化を愉しむために〜  ○
●                   第58号 2004/11/25発行   ●
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【布(4) 麻】(あさ)
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《目次》
▽《麻》麻織物
▽《衣料用の麻》亜麻/苧麻
▽《網・包装用の麻》黄麻/大麻/マニラ麻

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◆麻(あさ)
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狭義にはタイマ(大麻)をさすが、広義には(綿のような種子毛繊維以外の)
植物性の長繊維、またはその繊維を採る植物の総称。
主な繊維材料としての「麻」には、亜麻(あま)、苧麻(ちょま、からむし)、
大麻(たいま)、黄麻(こうま)、マニラ麻などがある。

上等の麻は夏の衣料、リネン類、蚊帳などにする。
粗悪な麻は帆布、ロープ、魚網、南京袋などにする。

織物にするには、繊維をより細かくして糸にする。
ロープ・紐類にするときは、繊維束をそのままよりあわせて使用する。

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◇麻織物(あさおりもの)
麻類の繊維からつくった麻糸を原料とした織物の総称。
日本では、木綿の普及する江戸時代まで一般衣料の素材として用いられた。
軽くて堅牢で熱をよく伝え、水分の吸収・発散が速いが、弾力や柔軟性に欠ける。

もともと日本で作られる麻織物は「苧麻(からむし)」や「大麻」だったが、
明治以降は西洋から良質な「亜麻」が輸入される。

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《衣料用の麻》
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◆亜麻(あま)
アマ科の一年草。繊維用品種と種子用品種がある。
アカゴマ。ヌメゴマ。一年亜麻。
繊維としては「フラックス」、織ったものは「リネン」と呼ぶ。

西アジア原産。ヨーロッパ経由で、江戸時代初期に種子用品種が薬草として
日本に入る。
明治以降、北海道・東北地方で繊維用品種が栽培されたが現在ではほとんど
見られない。

亜麻の茎の繊維は、麻類で一番良質で柔らかく衣料向け。現代では衣料として
最も一般的。
種子から搾る亜麻仁油(あまにゆ)は良質な乾性油で塗料や印肉に使う。

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◇リネン(英語linen)
リンネル(フランス語linie're)

亜麻の繊維で織った薄地織物。またリネンから作った家庭用布。
組織は平織、綾織、繻子織があり、漂白の具合により半晒(はんざらし)品と
本晒品がある。

リネンは汚れが繊維の内部に侵入しにくく、表面のみに付着するため落とし
やすく、洗うたびに白さが増す。また、水に強く毛羽立たない。

吸湿性があり肌触りが冷たいので、夏向けの洋服地・シャツに使われる。

また丈夫で、水分の吸収発散が早いので、ナプキン、ふきん、テーブルクロス、
タオル、シーツ、ハンカチなどにする。これらの家庭生活で使う布製品を
「リネン類」と呼ぶ。

また厚地のものは帆布、キャンバス地にする。

「亜麻色」は未晒しの亜麻糸(フラックス)の色。灰色がかった薄茶色。
詳しくは「彩識風信バックナンバー/第2号」にて。
http://homepage2.nifty.com/n-bunko/pc/mmbn/fushin002.html

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◇寒冷紗(かんれいしゃ)
目の粗い極めて薄い綿布、または麻布。(本来は麻製)
細糸をあらく平織にして、糊付けして固く仕上げたもの。
薄地でごわごわしている。
装飾・造花・カーテン・蚊帳および芯地・裏打ちなどに用いる。
唐布(とうぬの)。

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◆苧麻(ちょま、からむし)
「苧(からむし)」は日本在来の麻。イラクサ科の多年草。
木綿以前の日本の代表的繊維で、現在も栽培される。茎の繊維を織物などに
用いる。
「苧麻(まお・ちょま)」とも呼ぶ。
東南アジアなどから輸入するものは「ラミー」と呼ぶ。

茎からは丈夫な繊維がとれ、水にも強いので、漁網、ロープ、消火ホースにし、
また織物にする。
材質は亜麻とほぼ同じだが、伸度に乏しく硬直で柔軟性に欠けシャリ感が強い。

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◇上布(じょうふ)
上質の麻糸で織った軽く薄い織物。
苧麻(からむし)や亜麻の細い糸を用いて平織りにしたもの。
江戸時代には精巧なものが作られ、上納布、献上布として幕府に納められた。

普通は先染にして、縞(しま)、絣(かすり)を織り出す。
薄地で軽くて堅く、肌に密着せず通気性に富むので、夏の代表的な着尺地と
なっている。

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▽越後上布(えちごじょうふ)
江戸時代から越後国小千谷(おぢや)付近で作られた、苧(からむし)の繊維
を平織にした上質な麻織物の総称。寒中に野天で雪晒しにする特徴がある。

緯(よこ)糸に強撚糸を用いた縮織のものは「小千谷縮」「越後縮」という。
白地に細かいかすり模様が多く、夏の高級着物地にされる。
1955年「小千谷縮越後上布」の名で重要無形文化財に指定された。

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▽薩摩上布(さつまじょうふ)
上質な麻織物の一。沖縄県宮古・八重山の諸島で製織された上布が、貢納品と
して薩摩に送られ、この名で諸方に販売された。苧麻(からむし)の糸で
織ったもの。細上布(ほそじょうふ)。
宮古列島産は紺地の絣や縞、八重山列島産は白地絣や赤縞を特徴とした。

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◇生平・黄帷子(きびら)
晒さない麻糸を平織りにした布。
織ったあと、晒したり染色したりして、男物の羽織・甚兵衛などを作った。
暖簾(のれん)、座布団などにも使われる。

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◇麻縮(あさちぢみ)
緯糸(よこいと)にやや強い撚糸(よりいと)を用いて織り、のち、
練って皺寄せをして布面全体に細かい皺を生じさせた織物。
小千谷縮(おぢやちぢみ)など。

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《網・包装用の麻》
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◆大麻(たいま、ヘンプ)
クワ科アサ属の一年草。中央アジア原産とされる繊維作物。
茎の皮から繊維をとる。
紅花・藍とともに三草と呼ばれ、古くから日本全国で栽培された。

実は鳥の飼料とするほか、緩下剤とされる。
インドタイマの花房や葉からは、ハシシュ・マリファナなどの麻薬をとる。

大麻の繊維は強靭で耐水性に優れる。
漁網、ロープ、帆布、敷物、畳表の経や縁、下駄の鼻緒の芯などに使われる。

古くは衣料にしたが現在は使わない。

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◆黄麻(こうま)
「綱麻(つなそ)」ともいう。
シナノキ科の多年草で栽培上は一年草。インド原産。
現在はインドや中国が主産地。茎から繊維(ジュート)をとる。
繊維は日光・水に弱く、摩擦にもろく、耐久性もない。
ジュートで織った粗布でコーヒー・綿花などのを運搬する袋(南京袋)を作る。
ほかに縄紐類、下級敷物、壁貼地などを作る。

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◇黄麻布(おうまふ)
「ヘシアンクロス(hessian cloth)」。
上質のジュートを平織りにした厚地の布。包装用布・かばんなどにする。

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◆マニラ麻(まにらあさ)
アバカ。マニライトバショウ。
バショウ科の多年草。フィリピン原産。繊維作物として熱帯で栽培。
バナナの木に酷似する。葉は巨大な長楕円形。
葉柄の繊維は強靭にして軽量で、耐水性が強いので船舶用ロープに最適とされる。
ほかに織物、帽子、製紙原料(マニラ紙)、ブラシが作られる。
黄麻や大麻より軽く、屈曲性と伸度に欠ける。

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 「小千谷縮」の産地といえば、中越地震で被害の大きかった新潟県小千谷市
 のことですね。本当なら冬は雪晒しで忙しいはずなのに、今年は仕事どころ
 ではないかもしれません。早く元の生活に戻れるように願っています。

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[2007/12/12]
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