メールマガジン「和服の基礎知識」バックナンバー〈042〉

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○  ●○● 和服の基礎知識 ●○● 〜日本文化を愉しむために〜  ○
●                   第42号 2004/07/01発行   ●
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【甚平・作務衣】(じんべい・さむえ)
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◆甚平(じんべい)

男性・子どもの夏のくつろぎ着。
丈が短く、袖にたもとがなくて、衿を前で打ち合わせて
腰の辺りで付け紐を結びます。
「甚兵衛(じんべえ)」とも言います。

江戸末期に庶民が着た「袖無し羽織(そでなしばおり)」が、武家の用いた
陣羽織(陣中で鎧・具足の上に着た上着)に形が似ていたことから、
「陣兵羽織」「甚兵衛」と呼ばれるようになります。
かつては袷(あわせ)や綿入りもあり、冬にも用いたそうです。

大正時代ごろから夏の男性のくつろぎ着として普及しました。
腰紐や帯を結ぶ浴衣に比べて簡単に着られるので、
夏場の家庭着として現代でもよく着用されます。

昔は「甚平」といえば、膝を覆うぐらいの長さのワンピース状の上衣のみで
着ていました。
昭和40年代ぐらいの和裁の本だと、ワンピース状の甚平の作り方を紹介
しています。

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現代では、おそろいの半ズボンをはくのが一般的です。
その場合上衣は短くし、裾がお尻を覆うぐらいの腰丈にします。

基本的に、肌襦袢の幅も丈も大きくしたような形をしています。
薄い木綿や麻製で単衣仕立てです。
脇の両裾に馬乗り(うまのり/スリット・切り込み)があります。
袖は短い半袖や七分袖の筒袖・平袖で、袖口が広めです。
「棒衿」で衽(おくみ)はありません。
ただし体格がいい人は衽を足して、前身頃の合わせを多く取ることもあります。

衿と身頃につけた付け紐は、右は表側、左は裏側で結び、普通の和服のように
右前に着ます。
付け紐で結ぶので帯を必要とせず、涼しく着られます。
袖も身頃も全体的にゆったりして、風通しが良い作りです。

ものによっては、袖と身頃の間にすきまをあけ、たこ糸で「千鳥掛け」にして、
より風通しを良くします。

下衣のパンツは、ゆったりした膝丈ぐらいの半ズボンです。
上衣と同じ生地で作ります。
ウェストは、ひもかゴムひもで絞ります。

※棒衿(ぼうえり)……「狭衿(せまえり)」とも言う。
                       和服の衿で、出来上り幅5.5cm位のもの。

※千鳥掛け(ちどりがけ)……縫い方の一種。
              糸などを互いに斜めに交差させて掛けること。
              縫い目が〈×××××〉という状態になること。
              「千鳥絡り(ちどりかがり)」ともいう。

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◆作務衣(さむえ)

甚平に似た和服に「作務衣」があります。
禅宗の僧が作務(さむ)のときに着る上下二部式の衣服です。
ちなみに、作務以外のときに僧侶として着る服は「法衣(ほうえ)」といいます。

※作務(さむ)…禅寺で禅僧が行う農作業・掃除などの労働一般。
        仏道修行として重要視される。

素材は主に厚地の木綿。紺色や黒など地味な無地。

上衣は筒袖、棒衿、腰丈、裾の両脇に馬乗り(うまのり)があります。
前で衿を打ち合わせ、衿に付いた紐を腰の辺りで結びます。
甚平より裾が短めで、お尻にかかるぐらいの丈。

下衣はくるぶしまでの丈の、まっすぐなズボンで、
ウェストと裾は、紐かゴム紐でで絞ります。

下衣のズボンがついたのは比較的新しく、戦後のことらしいです。
それまでは昔の甚平のように、膝丈の長い着物だったようです。

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甚平に似ていますが、いろいろ違いがあります。

(1) 素材は甚平より厚地の木綿。
  紺色や黒など地味な無地。夏以外の季節も着られます。

(2) 甚平より形が細身。
  作業の邪魔にならないため、袖も身頃もゆとりを減らしています。
  袖口も広がらないようにゴムひもを入れて絞ることもあります。

(3) 甚平より袖丈・ズボン丈が長い。
  作業で腕や脚を怪我をしないため、また夏以外の季節に着るためです。

禅僧以外の一般の人が作務衣を着るようになったのは比較的最近です。
私が子どもだった20年ぐらい前はまだ珍しかったと思います。

●ごあいさつ●…………………………………………………………………………

 こんにちは。マガジンのご登録ありがとうございます。

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 第26号で尺貫法の話を書いたとき、こういうことを書きました。

>◇六尺袖(ろくしゃくそで)
>(両袖に用いる布の長さが六尺になるからという) 
>袂(たもと)の長さが一尺五寸の大振袖。

 鯨尺一尺五寸は約57cm。
 40号で取り上げた「小振袖」の袖丈は鯨尺二尺(約76cm)。
 一尺五寸では「大振袖」にはなりませんね。
 六尺袖というのは、片方の袂の長さが鯨尺三尺(約114cm)になるようです。
 「長さ一尺五寸の大振袖」って広辞苑(第4版)の記述をうっかり信じた
 自分が間抜けでした。恥ずかしい。

●参考文献●……………………………………………………………………………

『和のふだん着—ゆかた、甚平、作務衣の縫い方をわかりやすく』〈雄鶏社〉
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4277721729/dearbooks-22

『ミシンで縫うゆかた・作務衣・甚平』〈日本ヴォーグ社〉
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4529032493/dearbooks-22

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[2006/06/25]
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