メールマガジン「和服の基礎知識」バックナンバー〈033〉

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○  ●○● 和服の基礎知識 ●○● 〜日本文化を愉しむために〜  ○
●                   第33号 2004/04/22発行   ●
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【下駄】(げた)
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◆下駄(げた)

木製の台に鼻緒をすげたはきものの総称。

普通、台に「歯(は)」をつけて高くする。

歯には、台に別の板をはめ込む「差歯(さしば)」と、
台部と歯を一木(いちぼく)で作る「連歯(れんし)」がある。

古くは足駄(あしだ)、木履(ぼくり)などと呼ばれた。
古代から農作業に使われた「田下駄(たげた)」から発展した履物。
平安・鎌倉時代には長円形の台に歯をはめた差歯下駄が用いられた。
日常裸足で過ごしていた庶民が、江戸時代中期に雨天用に下駄を履き始め、
しだいに下駄や草履を常用するようになる。

台部の材料は桐(きり)、杉(すぎ)、檜(ひのき)など。桐が上質とされる。
差歯には樫(かし)、欅(けやき)、朴(ほおのき)など。
鼻緒には麻、シュロを布や皮で包んだものなどが用いられる。
台の形は男物は角形、女物は丸形が一般的。

江戸時代は道路が整備されていなかったため、
草履よりも泥をよけることが出来る下駄のほうが好まれた。

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◇足駄(あしだ)
雨降りなど道の悪い時に履く、高い二枚歯のついた下駄。 高足駄。 高げた。
古くは歯・鼻緒のある板製履物の総称。

江戸時代は江戸では歯の高いものを足駄、低いものを下駄と呼んだ。
京阪では歯の高いものを高下駄、低いものを差下駄と呼んだ。

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◆下駄の種類
◎台に歯を作らない下駄/連歯/差歯/特殊な下駄

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《台に歯を作らない下駄》
◎ぽっくり
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◇ぽっくり
女性用の下駄の一種。「ぼっくり」とも言う。
語源は木履(ぼくり)の転訛とも、歩くときの音からきたともいう。
歯を作らず、台を高くした下駄。
台の底をえぐり、後方を丸く、前方を「前のめり」にする。
側面は黒または朱の漆塗、表は布張りや畳表が多い。
鼻緒はビロード、台は桐、杉など。
女児や、祇園(ぎおん)の舞妓などが用いる。

◎ぽっくり(側面の略図)
┌──────┐ 表
│      │ ↑
 \      │ ↓
  \     │ 底
     ‾‾‾‾‾
つま先 ←→ かかと

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《連歯(れんし)》…台と歯をひとつの木で作る下駄
◎駒下駄・庭下駄・雪下駄・三枚歯下駄・右近下駄
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◇駒下駄(こまげた)
ひとつの材木から台と歯を一緒にくりぬいて作った、歯の低い下駄。
駒(馬)のひづめの形に似ているのでこの名がある。
貞享(じょうきょう/1684〜1687)のころにできたといわれる。

◎駒下駄(側面の略図)
┌──────┐
└┐┌──┐┌┘←台と歯の間に継ぎ目がない
 └┘  └┘

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◇庭下駄(にわげた)
庭を歩くためにはく下駄。
台を逆凹字形に切り出した駒下駄。

◎庭下駄(側面の略図)
┌──────┐
│ ┌──┐ │←歯がつま先とかかとについている
└─┘  └─┘

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◇雪下駄(ゆきげた)
雪国で冬期に用いる、歯を高くしすべり止めの金具を打った下駄。

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◇三枚歯下駄(さんまいばげた)
くりぬいて作った高い三枚歯の漆塗りの華やかな下駄。
花魁道中(おいらんどうちゅう/遊女が盛装して郭中を練り歩いたこと)に
用いた。「道中下駄」とも言う。
花魁道中の独特の大振りな歩き方は「八文字(はちもんじ)」と呼ぶ。

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◇右近下駄(うこんげた)
裏底にゴムを貼った駒下駄。台が靴のようにカーブしている。
台が厚く(ぽっくりほど厚くない)前のめり・天反り(ローヒールくらいの
アーチ曲線)、中央の土踏まずのあたりの裏で溝が作ってある。
ゴムのために滑らないし、下駄らしいカラコロとした音がしない。
男物と女物がある。桐、漆塗り、竹皮表などバリエーションが多い。

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《差歯(さしば)》…歯を別材で作る下駄
◎差歯下駄・日和下駄・吾妻下駄・高下駄・朴歯・銀杏歯
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◇差歯下駄(さしばげた)
差し歯の下駄。差下駄(さしげた)・一枚歯下駄とも言う。

◎差歯下駄(側面の略図)
┌──────┐
└┬┬──┬┬┘← 台に歯を差し込んでいる。
 └┘  └┘   台と歯を別の種類の木で作るものもある。

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◇日和下駄(ひよりげた)
おもに晴天の日にはく、歯の低い下駄。
江戸時代は、遊び人や水商売の者が多く使用。
もとは平足駄(ひらあしだ)と呼び、足駄の低いもので、歯は差歯であった。

晴天に使用されたためこの名があるが、
現在は爪皮(つまかわ)をつけて、雨天に用いられることが多い。

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◇吾妻下駄・東下駄(あずまげた)
婦人用の下駄。畳表のついた、歯の薄い日和下駄。
浅い爪皮(つまかわ)をかけて用いる。

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◇高下駄(たかげた)
歯を高く作ったげた。高歯下駄(たかばげた)。足駄(あしだ)。

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◇朴歯(ほおば)
朴の木(ほおのき)で厚く作った高下駄の歯。また、その歯を入れた下駄。
やわらかく丈夫で長持ちする。
台は桐など別の材を用いる。

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◇銀杏歯(いちょうば)
銀杏の葉形のように、末(底面)の広がった高下駄の歯。
また、その歯を入れた下駄。

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《特殊な下駄》
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◇田下駄(たげた)
泥田で作業する時、足の埋没を防ぐために履く、大形の下駄。下駄の原型。

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◇一本歯下駄(いっぽんばげた)
歯が一枚(一本)だけの差歯の高下駄。
修験者(しゅげんじゃ)・僧侶が山中で修行するときに履く。
足場の悪い場所では二枚歯より安定して、軽快に走ることが出来る。
「天狗の高下駄」として知られる。

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◇塗り下駄(ぬりげた)
漆塗りの下駄。形は色々。
ぽっくり、三枚歯下駄などを含む。

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◇シュース
ハイヒールのサンダルのような婦人用下駄。
ぽっくりのかかとを高くした形の天反り(てんそり)の台で鼻緒付きの下駄。
昭和初期に洋装のハイヒールに影響されて作られた。

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《専門用語》
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※天反り(てんそり)
靴のようにアーチ型を描く下駄の台。
通常、下駄の台の表(おもて)は平らだったが、昭和初期に洋装の靴に影響
されて足裏の曲線にあわせた天反りが出来た。
現代は「右近下駄」に使われる。

◎天反り(側面の略図)
   ↓(台表のアーチ曲線)
   ↓ /‾‾‾‾|
 ___/     |
|         |
|         |
 ‾‾‾‾‾‾‾‾‾
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※前のめり
台裏をつま先から斜めに切り出した状態。ぽっくり、右近下駄などに用いる。
 
◎前のめり(側面の略図)
┌──────┐
│      │
 \      │
  \     │
     ‾‾‾‾‾
 ↑前のめり

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※爪皮・爪革(つまかわ)
雨・雪降りなどに、下駄の爪先を覆って汚れを防ぐ用具。
「爪掛け(つまがけ)」とも言う。

◎爪皮(側面の略図)
┌──┐←爪皮
├──┼───┐
└┬┬──┬┬┘←台
 └┘  └┘ ←歯
つま先 ←→ かかと

●ごあいさつ●…………………………………………………………………………

 こんにちは。マガジンのご登録ありがとうございます。

                      ×  ×  ×  ×  ×

 「シュース」みたいな、ヒールのある鼻緒付き下駄って実在したんですね。
 モダンな雰囲気でかっこいいですが、これって前緒に体重がかかって、
 親指と人差し指の谷間が痛くなりませんか。
 サンダルなら五本の指に分散して体重がかかるので支えられますが。

 お洒落だけど歩くのに適さないあたりが、一般に普及しなかった敗因かも
 しれません。

                      ×  ×  ×  ×  ×

 Googleで、「下駄 ○本歯」「下駄 ○枚歯」を検索すると
 歯が一つのときは「一本歯」、歯が三つのときは「三枚歯」が多いです。
 歯が二つのときは「二枚歯」と「二本歯」が同じくらいです。

●参考文献●……………………………………………………………………………

『日本史モノ事典』平凡社 ISBN4-582-12420-8
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4582124208/dearbooks-22
『大江戸ものしり図鑑』花咲一男:監修〈主婦と生活社〉
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/439112386X/dearbooks-22
……などなど

◆「広島県はきもの協同組合」
様々な下駄の、側面(横)から見た写真が置いてあります。
「シュース」もここで見つけました。
http://www.e-hakimono.com/variously.htm

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[2006/03/11]
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