メールマガジン「和服の基礎知識」バックナンバー〈017〉

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○  ●○● 和服の基礎知識 ●○● 〜日本文化を愉しむために〜  ○
●                   第17号 2003/12/25発行   ●
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【男物の礼装】(おとこもののれいそう)
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◆袴の着け方(追補)

前回の袴の着け方で、長着のところで長襦袢の話を抜かしていました。
(1)の部分のみ追加します。

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(1) 上の着物を着ます。

長着の場合、裾が袴からはみ出さないように短めのものを着るか、
帯を締めてから後ろ裾をつまみあげて帯に引っ掛けます。

裸の上に、
 肌着(肌襦袢+ステテコ)
  ↓
 長襦袢+腰紐(もしくは半襦袢+裾よけ)
  ↓
 長着+帯
の順番で着ます。

長襦袢(もしくは半襦袢)の衿に、半衿をつけます。
半衿は、礼装は白、その他は薄い色付きです。
女物と違い、男物の着物は衣紋を抜きません。
正装では、長着の衿は比翼仕立て(衿が二重)になっています。

剣道や弓道などの武道の稽古着の場合、丈の短い「胴衣・胴着(どうぎ)」を
着ます。
「胴衣」は袴の脇から肌が見えないぐらい(太ももの辺り)の丈、
つまり胴を覆う長さの着物という意味です。
袖は袂(たもと)のない筒袖です。
おくみがなく、前がはだけないように衿に付けた紐を結びます。
胴衣の場合肌襦袢のみ(もしくは肌着なし)で、長襦袢は必要ありません。

(2) 以下略。(前回マガジン参照)

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◆男の羽織袴

ここから今回の本編です。

「羽織袴」と言うと、五つ紋付の黒い羽織と縞の袴をつけた
男子の正式の服装のことです。

江戸時代の羽織袴は、武士の日常着で町人の礼服でした。
武士の正装は裃(かみしも)でした。
幕末には羽織袴が武士の公服(公の場に着ていく服)になります。

明治維新で裃が廃されてから、羽織袴が男子全般の礼服となります。
ただし明治政府は、礼服として洋装を推し進めました。

男子の正装が「黒羽二重五つ紋付羽織袴」になったのは、
明治時代に太政官布告によって定められたらしいですが、
布告が出たのが明治5年説と明治10年説があり、もう少し調べたいと思います。

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◆男の着物の格付け

 長着+羽織+袴
   ↓
 長着+袴
   ↓
 長着+羽織
   ↓
 長着のみ(着流し)

羽織は、享保の頃から黒の紋付がもっとも正式なものとなり、
無地・小紋・縞の順に略式として扱われます。

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◆男物の正装

◇羽織袴
女性と違い、男性の正装は慶事も弔事もほぼ同じです。

黒羽二重の長着の上に、黒羽二重の羽織、平織り縞模様の袴を着けます。
季節によって秋冬春は袷(あわせ)、6月と9月は単衣(ひとえ)、
7、8月の盛夏は絽(ろ)の夏物に変わります。

紋は「染め抜き五つ紋(表紋)」が長着と羽織に付けられています。
長着の下には長襦袢を着ます。長襦袢につける半衿は白です。
袴は馬乗袴が正式ですが、行灯袴も可。生地は縦縞の仙台平(せんだいひら)
など。太い縞は若者向け、細い縞は年配向けと言われますが、
一般的に細めの縞にした方が無難です。
袴の紐は十文字に結びます。
袴を畳んだときに横方向に折りじわがつきますが、
これはつけたまま着ても構いません。

正式には黒羽二重の長着の下に、白羽二重の下着を重ね着しますが、現代では
省略されています。長着の衿が比翼仕立て(白い衿を重ねたように見せる)に
仕立てていることもあります。

羽織紐は白い組紐で、房になった先を上にして結びます。
足袋も白で、素材はキャラコなど。
履物は畳表の草履です。鼻緒の色は慶事は白、他は黒など色付きになります。
慶事には竹骨の白扇(末広)を持ちます。

喪服の時の足袋や半衿の色は、地方によって異なる場合もあります。

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◆男物の略装

◇羽織袴
五つ紋の黒羽二重以外の長着と羽織、袴は無地か細かい縞。
素材は格式の高い順に「色羽二重」→「お召」→「紬(つむぎ)」。
長着と羽織は同色でなくても可。
長襦袢に付ける半衿は白、または紺か灰色など色付き。
羽織紐は色付き。足袋は白。
袴の紐を「一文字」に結びます。
紋は「三つ紋」か「一つ紋」。紋が入っていることが、略装の条件です。

●ごあいさつ●…………………………………………………………………………

 こんにちは。マガジンのご登録ありがとうございます。

                      ×  ×  ×  ×  ×

 どうして袴の着け方で、長襦袢の話を追加する気になったかというと、
 雑誌で「日清どん兵衛」の広告を見て気になったためです。

 上戸彩と中村獅童の出ているCM・広告なのですが、
 彼らが着ている着物の衿がちょっと変わっているのです。

 上半身は、右の長着の上に、反対の身頃の長襦袢が乗っています。
 でも下半身は褄(つま)から長襦袢は見えません。
 これって、上下が分かれた二部式の着物になっているのでしょうか。

 日清食品どん兵衛のサイトに行ってみたら、
 CMの衣装についての文章がありました。

 >今回の衣装は、このCMのためにデザインされた完全オリジナルなもの。
 >“新しい和風”をコンセプトに、どん兵衛のパッケージにある格子柄を
 >使った着物になりました。 

 うーん、私は衿元が気になって、あまり好きになれません。

 〈参照〉日清食品どん兵衛のサイト
 http://donbei.jp/cm/index.html

●参考文献●……………………………………………………………………………

◇『みんなの剣道』村嶋恒徳〈学習研究社〉
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4054022154/dearbooks-22
◇『みんなの弓道』高柳憲昭〈学習研究社〉
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4054017002/dearbooks-22
♪学生向けの武道の入門書。
 稽古着の着け方が、写真付で丁寧に解説されています。

◇『日本服飾史』谷間閲次・小池三枝:共著〈光生館〉
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4332100379/dearbooks-22
♪古代から戦後までの日本人の着てきた衣服についての研究書。
 少し固めの内容ですから、服飾の歴史について詳しく知りたい人のために。

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[2005/01/04]
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