メールマガジン「彩識風信」バックナンバー〈046〉

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               『彩識風信』 第46号《からくれない》
 ……………………………………………………………2003/09/23発行………
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◆韓紅・唐紅(からくれない)
 ◇ 色見本 ◇
 マンセル:1.5R 5.5/13
    RGB値:#E64B6B
     CMYK:C0 M80 Y45 K0
 ◇あざやかな赤〈JIS系統色名〉
  濃い紅色。深紅。
  舶来の紅の意から、その染め色の美しさを特に賞賛して言う名。

             ◆ ◇ ◆

《からくれないに水くくるとは》

  ちはやぶる 神代(かみよ)もきかず 竜田川
        からくれなゐに 水くくるとは

             〈古今和歌集/在原業平〉

 訳:不思議なことの多かった神代の昔でも聞いたことがない。
   散った紅葉で、竜田川の流れを深紅のくくり染めにしているとは。

小倉百人一首にも選ばれた有名な歌です。
紅葉が川を彩って流れ行く景色を、
美しいくくり染め(絞り染め)に見立てています。
「ちはやぶる(千早振る)」は「神」にかかる枕詞です。

             ◆ ◇ ◆

古典落語「千早振(ちはやふる)」では、この歌を面白く解釈しています。

「竜田川」という相撲取りが、
「千早」という気位の高い花魁(おいらん)に惚れて、手ひどく振られました。
代わりに妹分の「神代」を望みますが、これにも断られました。
(千早振る 神代もきかず 竜田川)

傷心の「竜田川」は実家に帰り、豆腐屋を継ぎました。
数年後「竜田川」の豆腐屋に、落ちぶれた「千早」が訪れ物乞いをしましたが、
昔振られた恨みで追い返されました。
卯の花(おから/豆腐のしぼりかす)もくれないことを恨んだ「千早」は
豆腐屋の井戸に飛び込んで死んでしまいました。
最後の「とは」は、「千早」の本名が「とわ」だからです。
(からくれないに 水くくるとは)

無茶苦茶な解釈ですけど、小学生のときこの話を聞いて、
「ちはやぶる」の歌を覚えました。

そういえば、百人一首で最初に覚えた歌は、
中国から帰れなかった遣唐使の阿倍仲麻呂の歌でした。
「天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」

和歌を暗記するには、背後の物語も知っていると覚えやすいです。

◆ごあいさつ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

 こんにちは。マガジンの登録ありがとうございます。

             ◆ ◇ ◆

 阿倍仲麻呂(あべのなかまろ)は「安倍」とも書くそうです。
 陰陽師の安倍晴明(あべのせいめい)は「安倍」。
 森鴎外の短篇小説に『阿部一族』があります。

 「安部」「安倍」「阿部」「阿倍」などある「あべ」姓で
 現在一番多いのは「阿部」さんだそうです。
 
◆参考文献 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

『新版 色の手帖』永田泰弘:監修(小学館)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4095040025/dearbooks-22
『色々な色』ネイチャー・プロ(光琳社出版)
※現在は角川書店より『色の名前』と改名して刊行
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4048836226/dearbooks-22
『日本の傳統色 その色名と色調』長崎盛輝(青幻舎)ほか
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4916094530/dearbooks-22

◆おまけ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

◇『落語国紳士録』安藤鶴夫〈ちくま文庫〉
 落語「千早振」の話を書く参考にしました。
 落語の登場人物の設定や経歴を面白くまとめた読み物です。
 元の落語を知っていると楽しさ倍増です。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480025448/dearbooks-22

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[2004/01/12]
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