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清原なつの作品集リスト:小学館/角川書店

『人魚姫と半魚人王子』作品解題

金銀宝石姫とブリキ王子
虫愛ずる姫 vs. 花咲か王子
ふたなり姫ととりかえばや皇子
眠り姫と監禁王子
人魚姫と半魚人王子
カナリア姫とオウム王子
かたずけられねーぜ姫とブラックホール王子
鉢かづき姫と一寸法師王子
サボテン姫とイグアナ王子
もういない猫の話
ニッコウキスゲのこと
あとがきまんが「レモンイエローをおねがい」

金銀宝石姫とブリキ王子

《初出誌》flowers2006年3月号/8ページ
雑誌掲載時は2色カラー・縦横同じの変形ページ。

《ストーリー》
舞台は中世ヨーロッパ風。
体から宝石を生み出す呪いをかけられた「金銀宝石姫」と、魔女に呪いをかけられてブリキ男にされた王子。
二人は互いに愛するが、すべてを手に入れようとして逆に触れ合えなくなってしまう。

《元ネタ》
ブリキ男(と仲間たち)が願いを叶えてもらうために、エメラルドの都にいる大魔法使いオズに会いに行く『オズの魔法使い』(ライマン・フランク・ボーム)を連想する。

▽『オズの魔法使い (ハヤカワ文庫 NV (81))

虫愛ずる姫 vs. 花咲か王子

(むしめずるひめ ばーさす はなさかおうじ) 《初出誌》flowers2006年5月号別冊付録「空想館」/8ページ
「空想館」はフラワーズのマンガ家による描き下ろしファンタジーマンガアンソロジー。

《ストーリー》
舞台は中世ヨーロッパ風。
植物の苗がきっかけで市場で出会った姫と王子。しかし二人が付き合い始めてから姫が「虫愛ずる姫」、王子が花を傷める害虫をせん滅するためにサイボーグに改造された「花咲か王子」と判明し「壮絶な戦い」を繰り広げる。
雑誌掲載時のキャッチフレーズが〈異種格闘恋愛ファンタジー〉。
タイトルに「vs.(ヴァーサス)」が入っているところから笑ってしまいますが、中身も「壮絶な戦い」の手抜きっぷりが見事です。他の人では描けない清原さんの世界です。

《元ネタ》
「虫愛ずる姫」は『堤中納言物語』に出てくる、美人だけど化粧もおしゃれせず毛虫をかわいがる姫君の話。花咲か王子は日本の代表的昔話「花さか爺」より。

▽『堤中納言物語—マンガ日本の古典 (7) 中公文庫』マンガ:坂田靖子

▽『桃太郎・舌きり雀・花さか爺 (岩波文庫—日本の昔ばなし)

ふたなり姫ととりかえばや皇子

《初出誌》flowers2006年9月号/16ページ

《ストーリー》
舞台は平安時代日本風。
両性具有の姫君が年頃になり、手当たりしだい男女と乱行を続ける。そのうち男でも女でもないという旅の楽士の若者を愛するようになる。楽士の若者の正体は、異星の皇子(男にも女にもなれる)だった。皇子が生贄から逃げ出したため王国は太陽を失い滅んだ。それが藤原定家が『明月記』に書いた「大客星」という。

《元ネタ》
「とりかえばや物語」は平安時代の物語。男の子のような姫と女の子のような若君は大臣家の腹違いのきょうだい。それぞれ本来の性別と反対の立場で宮廷に出仕しいろいろあった末もとの性別に戻って幸せになるラブコメディ。「とりかへばや」とは「取り替えたいなあ」と言う意の古語。氷室冴子さんの小説『ざ・ちぇんじ』の元ネタとしても有名。

「ふたなり姫ととりかえばや皇子」の話の中に藤原定家と「大客星」が出てきました。
この「大客星」を2006年に日本の天文衛星が観測しました。

千年前に藤原定家が記録の「超新星」、すざくが観測
Yahoo!ニュース - 読売新聞 - 社会ニュース - 12月9日(土)12時44分(削除済み)

>鎌倉時代の歌人・藤原定家(1162〜1241)が日記「明月記」に出現の記録を残している超新星「SN1006」の現在の様子を、エックス線天文衛星「すざく」がとらえ、宇宙航空研究開発機構が画像を公開した。

「明月記」は1180〜1235年(鎌倉時代)に書かれたもので、公的な政治や古い記録、和歌などの見聞を記し、鎌倉時代の史料として有名なものです。

「明月記」の中に天文・気象分野を司る陰陽寮の古い記録から客星(彗星・超新星)の記録がいくつか書き写されています。その中に3つの超新星の記録があります。
その3つのうち一番有名なのが1006年に現れた超新星で、当時はマイナス6・3等(満月の約半分の明るさ)と非常に目立つ星で特に「大客星」と書かれていました。日本だけでなく、中国・欧州・アラビアにも記録が残っています。

※参考資料
『星の古記録』 斉藤国治〈岩波新書〉

詳しい報告と映像は宇宙科学研究所X線天文グループ の「すざく」ホームページに掲載されています。

すざく観測速報12: すざくが観測したSN1006
「すざく」ホームページ(2006/07/11)
宇宙科学研究本部|JAXA「すざく」公式ホームページ

この記事、Yahoo!ニュースのサイトに掲載されたのは12月ですが、実際に「すざく」ホームページで公表されたのが7月なのですね。

作品の発表時期を考えると、「すざく」の観測速報でこの「大客星」が取り上げられるのを見越して「ふたなり姫ととりかえばや皇子」を描いたのでしょうか。観測の予定は数ヶ月前からホームページで発表されていたのでできない話ではありません。
流石は清原さん。作品に時事ネタを合わせるのも、SFネタを少女マンガに消化するのも素晴らしいお手並みです。それに数ヶ月気づかなかったとはファンとして不覚です。

眠り姫と監禁王子

《初出誌》flowers2007年3月号/16ページ

《ストーリー》
舞台は古墳時代日本風。
好きな女の子を監禁するのが愛情表現のゆがんだ嗜好のはにわの王子が、よく眠るお姫様(西洋風)を連れて帰る。眠り姫は恋人が3分触れていないと寝てしまい、寝ると記憶がなくなる呪いがかけられていた。王子は姫から離れられなくなり、姫は金色の繭となり王子と王国を包み込む。

《元ネタ》
「眠り姫」はフランスの「眠れる森の美女」(ペロー)やドイツの「いばら姫」(グリム)などで有名なヨーロッパのおとぎ話。
《夏貸文庫》世界の民話・昔話

監禁王子は時事ニュースネタ。2001年から2005年にかけて北海道・青森・東京で、金持ちの馬鹿息子が複数人の少女を長期監禁暴行していた事件。

人魚姫と半魚人王子

《初出誌》flowers2007年11月号/24ページ

《ストーリー》
舞台は現代日本。
人間になって大都会でキャリアウーマンとして働いている人魚姫と、海岸の町で魚料理のレストランのオーナーシェフと結婚相談所のパーティーで知り合う。付き合ってから互いに正体を明かすが、下半身が魚の人魚と上半身が魚の半魚人が完全に触れ合うために大切な声や味覚を失う。結果、人魚は左遷させられ半魚人はレストランをたたむ。最後の晩餐に、半魚人は自分の肉を人魚に食べさせ、人魚は不老不死となる。

《元ネタ》
「人魚姫」はハンス・クリスチャン・アンデルセンの創作童話。
上半身が魚で下半身が人間の半魚人はアマゾン川流域の伝説をもとにしたSF小説や映画ネタ。
男女が互いのために自分の自慢のものを手放しすれ違うのはオー・ヘンリーの短編小説「賢者の贈り物」。
人魚の肉を食べて不老不死になるのは日本各地に残る伝説「八百比丘尼(やおびくに)」より。
《夏貸文庫》日本の民話・昔話

カナリア姫とオウム王子

《初出誌》flowers2008年4月号/24ページ

《ストーリー》
舞台は無国籍な近未来。
歌を忘れた籠の鳥の歌姫と、彼女の逃亡を助けるテロリストの少年。
テロで亡くなった少年の臓器が少女に移植され、少年の記憶の断片を受け継ぎながら少女は復帰コンサートで歌う。

《元ネタ》
「カナリア姫」(1943年/アメリカ)という映画があるようです。アメリカに来た王族の姫が身分を隠して恋をするラブコメディっぽい。
あらすじ「カナリヤ姫」 - goo 映画

清原さんの昔の作品を思い出させるモチーフがちりばめられています。
小さいころから軍事目的の特殊能力を訓練されるのは「千の王国 百の城」の毒娘。故郷の村の消失の危機、記憶の混乱は「さよならにまにあわない」。愛する人の臓器を移植されてふたりがひとりになって生き延びるのは「真珠とり〜まりあ」。管理された高度文明社会は〈アレックス・タイムトラベル〉シリーズ。
由緒正しいSFのエッセンスが詰め込まれています。

かたずけられねーぜ姫とブラックホール王子

《初出誌》flowers2008年8月号/24ページ

《ストーリー》
舞台は現代日本。
会社ではバリバリ働くキャリアウーマンだが、家では部屋をかたづけられない女。道で拾った壺がきっかけで、妹と二人暮らしの家に男を連れ込む。姉妹から「壺魔人」と呼ばれる男は、汚部屋から持ち出したものを売ってごちそうを作ってくれる。部屋がかたづき、女が目を背けていた記憶が整理され、壺魔人は家を出る。

《元ネタ》
三つの願いを叶えてくれる壺の魔人は『アラビアンナイト(千夜一夜物語)』の「アラジンと魔法のランプ」。
『アラビアン・ナイト(上)』 ディクソン:編/中野好夫:訳〈岩波少年文庫〉

「〜ネーゼ」は「〜に住む人」を意味するイタリア語の語尾。東京都港区白金台周辺に住む、高級なイメージをもつ女性のことを「シロガネーゼ」と呼ぶような使い方をする。1990年代後半から2000年代の流行語
部屋を片づけられないで「汚部屋」に住む女も近年増殖している。

鉢かづき姫と一寸法師王子

《初出誌》flowers2008年11月号/24ページ

《ストーリー》
舞台は平安時代風日本。
継母にいじめられて世をはかなみ入水自殺を図った鉢かづき姫は、お椀の舟に乗った一寸法師と出会う。家を追い出された鉢かづき姫と一寸法師は、旅の資金のため賞金稼ぎの鬼退治に出向く。鬼が落とした打ち出の小槌(物質サイズ変換装置)で、一寸法師の身長と、鉢とお椀のサイズを大きくする。鉢かづき姫と一寸法師は他の星から来た入植者の一族の子孫で、鉢とお椀は星間連絡船の部品だった。移民船団の一族だった鬼を呼び寄せ、みんなでしあわせに暮らしました。

《元ネタ》
「鉢かづき姫」「一寸法師」は室町時代から江戸時代に作られた絵入物語集『御伽草子(おとぎぞうし)』のお話。
『御伽草子(上)』「鉢かづき」
『御伽草子(下)』「一寸法師」
 市戸貞次:校注〈岩波文庫〉

サボテン姫とイグアナ王子

《初出誌》flowers2008年12月号/30ページ

《ストーリー》
舞台は中世ヨーロッパ風。
体中をトゲで覆われた姫。姫のトゲを取った男と結婚させるとおふれが出され、呪いでイグアナの姿に変えられた男が姫の身体をなめてトゲをとるうちに互いに愛が芽生える。姫のトゲが取れるに従い、イグアナ王子の姿と記憶が戻る。王子は敵国の第一王子で、継母と不義の恋をして父王に呪いをかけられていた。どちらの国にもいられない二人は、姫の母の手引きで小さな島へ駆け落ちする。

《元ネタ》
清原さんの「サボテン姫とイグアナ王子」8P(『サボテン姫とイグアナ王子』本の雑誌社)のエピソードを膨らませた話。姫の幼馴染の隣国の王子が邪魔をしたり、王子に呪いをかけたのが継母から父王に変更されたりしている。

もういない猫の話

《初出誌》flowers2007年6月号付録「フラワーZOO」/4ページ
動物をテーマにした描き下ろしマンガアンソロジーに掲載

《ストーリー》
マンガエッセイ。
清原さんが通っていたお茶とお華の先生のお宅に居た黒猫の思い出。

ニッコウキスゲのこと

《初出誌》flowers2008年6月号/4ページ
花をテーマにした描き下ろしマンガアンソロジーに掲載

《ストーリー》
マンガエッセイ。
奥日光の土産屋で苗を買って育てていたニッコウキスゲが急に弱った。そのころ、ニッコウキスゲの花畑を一緒に見たご友人の病気の知らせを受け、心配しているうちに亡くなられた。ニッコウキスゲは古代日本で悲しいことを忘れると言われたワスレグサ(萱草)の一種という。
山登りして花畑を見に行く思い出は「レディーズ・ベッドストロウ」(『花図鑑』)を連想し、割烹着とボンネットで受粉作業する姿は「梨花ちゃんの田園のユウウツ」(『花図鑑』)を思い出します。園芸の専門家だったというご友人は、清原さんにいろいろ影響を与えていたのでしょうね。清原作品の長年の読者としては、遠い知人をなくしたような寂しさがあります。

あとがきまんが「レモンイエローをおねがい」

《初出誌》コミックス描き下ろし/1ページ

《ストーリー》
マンガエッセイ。
カラー原稿に使っている「ルマ」のカラーインクが入手困難になっているというお話。
カラーインクは数滴で色塗り出来るから今すぐに困ることもありませんが、メーカーのルマカラーが数年前に倒産しているので、店の在庫もいつかは無くなります。しかもカラーインクは未使用でも年数がたつと沈殿するからよけい処分される率が高いです。カラーインクはメーカーが違うと薄めたり混色したときの色合いがかなり違うから、簡単に乗り換えるわけにもいかないのです。

※整理番号は管理人が仮に割り振った番号です。
※過去コミックスは、以前に出版されたコミックスのことを指します。

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[2009/02/04]
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